カリウムの20-40-60-100法則

 研修医になって早4か月。使う知識はけっこう偏っていて、医師国試で勉強した医学の一通りの知識がどんどん失われていくことに危機感を持ち始めています。復習と独学のために、また当ブログを訪問してくださった皆様と医師国試をネタに交流をしたくて、日記を綴っていきます。コメント大歓迎です!できれば毎日一記事を目標にしたい!どうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m

 

  最初の一題は、私の受けた国試でもっとも印象に残ったこの問題。

 【 112C4 】

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 【答え】c

 受験後に知ったことですが、このカリウムの問題、実は「研修医の常識、医学生の非常識」という典型的な話題だったそうです。

 カリウムの 20-40-60-100 法則(または 20-40-60-120法則 )」と呼ばれているカリウム関連の数字があります。低カリウム血症に対して、カリウムを補充するための輸液をどのように行うか考える時に、投与しすぎるなと忠告してくれる法則です。

 

20:カリウムを補充する輸液の最大速度(許容される最も速い値)、20 mEq/h

40:カリウムを補充する輸液の最大濃度(許容される最も濃い値)、40 mEq/L

60:カリウムの一日あたりの尿中排泄量(これくらい排泄してほしいという値)、60 mEq/日

100:カリウムの一日あたりの最大投与量(許容される最も大きい値)、100 mEq/日 

 

 上記のように整理されていますが、以下の細かい補足がつきます。ちょっとややこしい・・・

 

※ 最初の20について、日本のK製剤の添付文書で輸液速度20 mEq/hまでとなっていることを示しています。しかし、末梢静脈からは輸液速度10 mEq/hまでとすべきと言われることも多く、実際にはいきなり20 mEq/hから始めるのはNGです。ちなみに中心静脈からは輸液速度20〜40 mEq/hで投与されます。

※ 次の40について、末梢静脈から投与する場合の血管炎・血管損傷・血管痛の予防という意味合いです。中心静脈から投与する場合には輸液濃度100 mEq/Lまで許容されます。

尿中Kの60という値は基準値であって、最大値ではありません。むしろ0.05 mEq/kg/hで尿中Kが出てほしいという希望です。体重50kg、1日24hで計算すると0.05×50×24=60 mEq/日となります。

※ 最後の100について、最大投与量120 mEq/日として法則化されることも(尿中Kの倍量で覚えやすい)ありますが、日本のK製剤の添付文書で100 mEq/日までとなっています。

 

 表で整理!

  末梢静脈 添付文書 中心静脈
速度 10 mEq/h 20 mEq/h 20〜40 mEq/h
濃度 40 mEq/L 40 mEq/L 100 mEq/L

 

   一般に 添付文書  または
尿中K 60 mEq/日    
最大投与量   100 mEq/日 120 mEq/日

 

 添付文書に登場する数字3つを合わせると、40 mEq/L以下に希釈して、速度20 mEq/hまでで、一日100 mEqまで投与する、という感じ。尿中Kの基準値60がやや異質ですね。なお低カリウム血症の原因を考えるときは尿中Kを20 mEq/日で鑑別する(詳細は省略)ので、さらにややこしい笑

 

具体的な投与方法は、たとえばこのような感じ。

末梢静脈:「KCl 20 mEq+生食 500 mL」(濃度40)を2時間で投与(速度10)

中心静脈:「KCl 10 mEq+生食 100 mL」(濃度100)を15分で投与(速度40)

 

そのほか低K血症について、雑多な内容を。

  • Kの値によって対応が分かれていて、2.0未満なら中心静脈から、2.0〜2.5なら末梢静脈から、2.5〜3.5なら経口で補正する
  • 低Mg血症があるとK排泄が促進されてしまうため、Mg欠乏があれば補う
  • 心電図モニタリング重要
  • 原因には①摂取不足、②腎臓でK排出促進、③腎外でK排出促進(嘔吐・下痢)、④細胞内シフト があり、細胞内シフトのとき原因の治療に伴って急激に高K血症となることがある

 


 

 以上、長々と「カリウムの20-40-60-100法則」を書いてしまいました。

 

 問題の解説を簡単に。

 112C4では、輸液製剤1L中にK 20 mEq含まれていて、末梢から投与できるカリウム濃度は40 mEq/Lまでだから、この輸液製剤1LにK 20 mEqを追加できるよね、という話。

 国試の問題はしっかりできていて、冒頭に「末梢静脈路から」と中心静脈ではないよと明記されています。

 また、「維持輸液」と書かれていて、3号液の組成になっています。1〜4号液では、2号液と3号液にカリウムが含まれるのでした。

 

 112C4は、やはり「研修医の常識、医学生の非常識」に着眼した点で良問だと思います。まぁ、もちろん問いている時はなんだコレと思いましたが笑 作問された先生あっぱれですね。これで医学生の知識の地平線はまた広がってしまいました。

 

 そして、この112C4という問題、実は同じC問題に112C36という一見似た問題があり、ここから推測して40を選んだ学生も多かったです。QBの最新刊は見ていませんが、解説にこの類似性に関する記載が書いてあると期待したいところ。

 

  【 112C36 】

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  【答え】b

 ずるいことにこの問題のKの値は、全部 20 mEq/Lとなっています。「平均的な経口摂取量の半分程度を入れたい」と言っておきながら、カリウムについては問題にしていないわけです。ナトリウムの成人推奨量は男性で8g/日ですから、mEq換算用(NaCl 1 g=17 mEq)に17かけて、8×17=136 mEq/日。これを実現できる選択肢はbしかありません。まさかの2号液が答えになっている点で、この問題も興味深いのですが、それはまた今度。

 さてK 20mEq/Lを1500 mL/日で投与すると、Kは30 mEq/日だけ投与されることになります。これが「平均的な経口摂取量の半分程度」に相当するなら、「平均的な経口摂取量」はK 60 mEq/日となります。

 あれ、60ってどこかで見たような・・・!?

 そうです。1日あたりのカリウムの尿中排泄量ですね。つまり、カリウムは正常なら、経口摂取量=尿中排泄量となります。電解質をまとめて以下のように覚えます。

Na, K, Clは経口摂取量=尿中排泄量(腸管での吸収率100%)

Ca, Mg. Pは経口摂取量≠尿中排泄量(腸管での吸収率Ca 20%, Mg 40%, P 60%)

 

 さて話を112C4と112C36の関連に戻します。けっこうな数の医学生は、60−20=40という計算をしてしまいました。60は112C36から導き出された「平均的な経口摂取量」、20は112C4の維持輸液1L中に含まれるカリウムの量です。

 112C4が問うた「カリウムの最大量(mEq)」とは、血管炎のリスク等を考慮した最大濃度(mEq/L)でした。しかし、これを最大投与量(mEq/日)と誤解すれば、112C36から導き出される60 mEq/日という値を参考にしてしまいます。もちろん、112回を受験した医学生の多くにとって、カリウムの最大投与量100mEq/日なんていう知識はありません。

 

 まとめになりますが、112C4と112C36の2問から、やはり113回以降の国試を受験する医学生にとってカリウムの20-40-60-100法則」医学生の新たな常識となっていくんだろうなと思います。医学生の知識の地平線を、実臨床に必要な範囲で広げた112C4は良問だったなと思いながら、執筆させていただきました。駄文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 <参考文献>

  • UCSFに学ぶできる内科医への近道
  • 総合内科病棟マニュアル
  • メルクマニュアル「低K血症」